帝光中学風紀委員会委員長!


the cheirman of the TEIKOU junior high school's disciplinary committee

忘れもしない。
俺が初めて赤司を見たのは、去年の4月8日の入学式当日のこと。俺の2年生の始業式の日でもあった。
新入生代表の挨拶をするからということで、先生に連れられて生徒会室にやってきた男子生徒、そいつが赤司だった。

当時2年の生徒会会長候補であった俺は、3年会長の隣で一連のやり取りを見ていた。俺と彼の間に会話はなかったが、彼の姿は鮮明に覚えていた。当時は普通の黒髪であった赤司だが、目の色素はやっぱり光に当たって赤く色づいていた。強い眼力を持っていて、俺はその瞳に反骨的な色が帯びているのを、一瞬見た気がした。わずかに引っかかりを覚えたものの、その瞳の色は隔世遺伝らしいという話を先生から聞いて、ちょっと特殊な色の瞳を見たから驚いているだけなのだと、自分を納得させたものだった。しかし、これこそが一番最初の邂逅であり、出来るならやり直しておきたい過去の1つであり、なにより、俺の地獄の始まりでもあった。


He brokes again.





現在時刻、12時30分。昼食の時間の真っ只中。帝光中学は全校生徒8000人はくだらないマンモス校であるため、給食という制度はなく、代わりに学食や購買が校舎に併設されている。しかし、生徒でごった返す学食にわざわざ出向き、時間と体力を消費している暇がないほど多忙な俺は、入学してからまだ1度も行ったことがなく、弁当を自分で作ってくる俺にはそういったところに出向く必要性を感じない。気心知れた友人は水泳部の伝統の慣習に則って部員全員と学食でとっているようなので、俺は一人教室で食事をとらなければならない。35分になったらお弁当箱を片付けて歯を磨き、38分にはこの教室の1階上にある生徒会室の席につき、お昼休みの予鈴が鳴るまでの22分をフルにつかって今日中に来週提出の書類を完成させようと目論んでいるので、俺は若干いつもより食べるスピードが早い。

ここまではよく見られるごく当たり前の光景なのだが、俺のクラスは現在静まり返っている。このお昼時、本来なら俺と同じようにお弁当を持ち寄った生徒達がわいわいと談笑しあっているはずなのであるが、今は静寂が辺りを支配している。時折ひそひそと会話したり、俺の方を指差したりするクラスメイトがいるが、俺はそちらは正直気にかける余裕などない。この時ばかりは喉を通る食材の味があまり美味しいものに感じられなかった。
その原因が、俺の机の向かい側を陣取る2年D組の赤司征十郎にあることは、もう言うまでもない。

「ねえ、。ちょっと話したい事がある。大事な事なんだ」

赤司という後輩は、わけがわからない。すべてが突然なので、俺の長年のカンによる予想と入念に練られた計画を目の前で踏みにじって、彼の都合の良いように上書きしていくのである。だから俺はこの後輩が大嫌いである。
それに加えて、普段は昼休みは会いに来ない赤司が、なぜか今日は授業終了を知らせるチャイムが鳴り終わってすぐこの教室に侵入してきて、俺の席の向かいに椅子を準備し、堂々と居座っている。ちなみにここまでの一連の動作で、俺に対する挨拶がなかった。俺は彼を無視している。まあ本当に今日は昼に予定を詰め込んでいたので、時間内に食事をとるためには彼と悠長に挨拶している暇等ないのだ。そうして無言で弁当を広げても、俺の目の前に座る後輩は何を言うでもなく、笑顔でこちらを見てくるだけだった。
食事の邪魔にならないなら良いという判断を下した15分前の俺を呪いたい。まさかここにきて、俺の分刻みのスケジュールの妨害を行ってくるとは考えもしなかった。しかし俺ももう子供ではない。これぐらいのことでブレるわけにはいかない。余裕がある笑顔のまま、最後のデザートである白桃4切れが入ったデザート用の弁当箱を開け、丁寧な対応をする。

「赤司征十郎君。僕は食事中だ」
「じゃあ、は食事を続けながら俺の話を聞くといいよ」

しかし俺の防御策の一手目は出鼻を挫かれた。どうやらどうしても俺に聞かせたいらしい。いや、むしろ俺が食事中は寡黙になるのを利用して、この静まり返った教室になにか爆弾を投下しようとしているんではなかろうか。いや、変に勘ぐるのはよくない。現に彼が俺の席の前に座っていること以外、彼は物理的には俺の邪魔にはなっていない。桃を1切れフォークでとると、俺は口に運んだ。咀嚼。甘くてみずみずしい味わいが、口の中に広がる。相変わらず父さんは果物の目利きだけは一等上手い。桃は俺の好物であるから口うるさいのだが、この桃は文句の並べようがない。

「俺がを愛しているのは知っているだろう」

桃がつるりとした食感のものでよかった。もしそうでなければ、俺は今頃むせ返っていただろう。目の前の後輩は表情筋1つ変えず、さらりと水面に巨大な石を投下した。ほらみろ、そんなことを言うから、そこの廊下から覗いている他クラスの女子共やらクラスメイトが小声ながら騒いでいるじゃないか。俺は断じてホモじゃない。しかし、今の俺は目の前の事態にかまっている場合などではなく、桃を早く食べ終えて、昼休みに終わらせたいことをやりに行かなければいけないのである。こんなところでつまづくような俺ではない。2切れ目をフォークで刺す。

「でもは俺をよく知らない」

後輩はなおも変わらず続ける。俺も桃を口に運び、咀嚼を続ける。
そう言われれば確かに知らないのであるが、しかし基本的な事ぐらいは嫌でも知っている。
赤司征十郎。クラスは2年D組。俺の今居る教室がある階から、2階下にある教室で授業を受けている。過去に髪が赤く染まっているとして風紀のブラックリスト入りしていたが、校長の配慮、という名の買収が行われたために特例として風紀の取締対象外になった。つまりボンボンのおぼっちゃま。それから彼はD組学級委員長で、バスケ部主将。学級委員で構成される学級会に所属しており、組織図で言うと、ピラミッドの頂点が生徒会長である俺とすれば、俺の下が生徒会役員、そしてそのもう1段下に当たるのが、学級委員ということになる。要するに彼とは学級会で月に1回、必ず会っている。去年1年のときに学年主席だったので、勉強もできる。さらにバスケ部では期待のエースらしく、2年にして主将を任されるカリスマ性を持っていて、彼はこのマンモス校の中でもそれなりに有名である。しかし残念なことに、俺と同じように完璧に見える彼には、俺とは違って問題がある。俺がホモ的な意味で好きらしいこと。要約すると彼は「世間知らずのボンボン、天才と馬鹿は紙一重」な人である。なまじ顔が良いだけあって、非常に残念なタイプである。
これが俺の彼に対する知識であるが、残念ながら食事がまだ終わっていないのでこれを口にすることはない。それに俺は急いでいるので、こんなつまらない事をぐだぐだと語る暇はないのである。こんなことを考えているなど微塵も考えさせないようなポーカーフェイスで咀嚼を終える。この後輩は俺がこんな本人への率直な意見を脳内でべらべら喋っているなど、気づいていないのだろう。

「だからこれから少しずつ知ってほしい。俺のことと、俺がどれだけのことを愛しているかを知ってほしいんだ。あんまり一気に話しても、は覚えてくれなさそうだから」

俺は3切れめの桃にフォークを突き刺した。この男、何を言い出すのかと思えばそんなことか。いや、ちょっと待て。これから少しずつ、とはどういうことだ。つまりこれは、俺と定期的に会って会話をすることを前提としているのか。俺はそんなことを許可した覚えも、容認する言動をした記憶もない。しかし食事中である。「咀嚼中にべらべら喋りだすなど、行儀が悪い」と言うような人物像を形成してきた俺にはできないのである。俺は咀嚼を続ける。あと1切れ食べればよい。食べ終えて片付けをして歯を磨けば、俺はこの後予定があるからと生徒会室に逃げ込めるのである。この嫌いな後輩の顔を見ないで済むのである。それを思うと少し気が楽である。ももの食感を楽しみながら、少し大ぶりな最後の一切れを刺そうとしたら、彼は突然俺のフォークを奪った。俺は顔を上げた。赤司の顔が先ほどより近い位置にあって、彼は相も変わらず微笑んでいた。

は、この後生徒会室で仕事をする予定かな。今日は俺が目の前に来ても文句を言わないし、食べるときも急いでいたから、昨日の学級会の書類を昼の間に片付けたいってところだろう」

彼は器用にフォークの横で桃を半分に切り分けると、その片方を刺して俺の口元に差し出した。反射的にそれを口に入れた俺は、口から離れて行くフォークの動きと、後輩の口角がほんの少し崩れるのを見て、硬直した。気がついたときには既にクラスのどよめきが発生していて、俺は思考を一斉に動かして現状の理解に躍起になった。今何が起きた。俺はこの男に所謂「あーん」というやつをされて、それを迷いなく享受したというやつなのか。しかし後輩は一言もそのようなことを言った訳ではないし、俺もそう言ってやったつもりは、毛頭なかった。一方後輩は何もなかったかのような涼しい顔で、残った桃にフォークを刺した。

「ああ、そうだ、俺も白桃が好きだから、覚えておいてね。…それじゃあ、また後で」

そう言うと彼は最後の一切れを口に入れ、フォークを俺の元の場所に置き、椅子を元あった位置に戻して、教室から出て行った。
結局俺が口にした最後の4切れ目は、味がよくわからなかった。ただ、今が俺の当初計画していた12時35分であり、俺は今からこのお弁当箱の片付けと歯磨きをすることで当初の計画が何一つ崩されていないということ、そして妨害してきたと思っていた後輩が、結果として時間的な妨害をしておらず、本人に妨害目的やその意思はなく、かつ俺のその後々の行動予定を大まかではあるが把握しているということだけは、はっきりと理解していた。
そしてこの一連のやりとりが、また学校の噂話としてまことしやかに流されるだろうということに思い至った辺りで、俺は胃の辺りがキリキリと痛みだすのを感じていた。

- continue -

2013-06-12

(また後輩はぶち壊して行った)
(何って、俺の体調だよ!)