the cheirman of the TEIKOU junior high school's disciplinary committee
帝光中学では今、番長と呼ばれ恐れられる、名前で体型が想像できるような人相の風紀委員がいるという突飛な噂がまことしやかに流されているが、俺はその正体が何者であるかを知っている。別に何処かの漫画やゲームに出てくるの番長ような風体ではなく、彼の姿形は3年男子中学生の平均を地で行くような、そんな普通の体型と顔の人物である。しかし一方で、中身は教科書に載りそうなほどの優秀さを併せ持っているのが、この渦中の人物のカンタンなあらましである。
そう。
彼こそが帝光中学風紀委員会委員長こと、。
ならびに彼は、俺が一等好いている人そのものである。
I hate you.
俺は。3年A組の出席番号4番。過去2年間の学年主席。テストは満点。体力テストも満点。先生からの信頼も絶大。
保有する肩書きで代表的なものを挙げるとしたら、生徒会会長、弓道部主将、並びに風紀委員会委員長、といったところだろう。
学校で俺のことを知らない人はいない、そのくらい俺は顔が広く、人望も厚く、そして優秀である。
そして噂の絶えない人間でもある。
自画自讃と言うならそこまでだが、俺は元々そういうつもりで生きようとしてきたわけではない。
特に噂話が顕著に立つようになったことに至っては、俺の意図するところではない。
なぜか?それは、俺のクラスの俺の席に堂々と座って、俺の机にハサミを1本墓標のように突き刺そうとしているキチガ…1つ下の後輩が元凶であるのだ。
「ああ、おはよう、」
先輩であるはずの俺を名前を呼び、敬語敬称さえ使わず、敬う素振りも見せず、胡散臭い笑顔をこちらに全開で投げつけて来るこの男。
赤司征十郎。2年D組の学級委員長で、バスケ部の主将。
この男こそが俺の最も忌み嫌う人間であり、風紀委員会委員長である俺の頭を悩ませ胃に穴を開け、俺の人生をぶち壊そうとしている因縁の男。
そしてタチが悪い事に、この男、学年はさる事ながら、生粋の中二病なのである。
元々、俺という人間は出生がアレなもので…まあ自分で言うのもなんだが、身体は子供、頭脳は大人の某名探偵のような状況に数年前突如としてなってしまったのだが…それを抜きにしても相当なナマケモノであった。
中学生に課されるテストなんてものは自分的には至極当たり前のことを問われているので、見慣れすぎてつまらないから手を抜く。
なにが嬉しくて体力テストで限界ギリギリまで尽力せねばならないのか理解できないので、これも手を抜く。
主席キープとかやってられないので、然るべき部分で手を抜く。
在校生が必ず所属しなければならない部活動においても、先輩も同級生でも気合の入って居るやつはいなく、顧問も緩い先生で大会出場もなさそうだったから剣道部に決めて、適度に手を抜く。
つまり俺は入学した当初に、常日頃「手を抜いて」生活することを信条としていた。これで俺の夢見る平平凡々中学生ライフは保たれると信じて疑わなかった13歳の春。
しかし、これらの防衛手段はそもそもが無意味だった。中学1年の1学期の成績順位と、中間試験の成績順位の掲示において、どちらも俺の名前が1番上に書かれていたのだ。以降、俺にはまるで神のような出来すぎ人間の理想像のレッテルが、学校中の人から貼られてしまった。俺が消失する瞬間のように思って、絶望したのをよく覚えている。まるで、無駄な抵抗はよせと、頭の穴という穴に銃口を向けられているようだった。顔も名前も知らない先生からかけられる賞賛の声。羨望とも憎悪ともとれる、感情の強く篭った同級生の視線。そのせいでというか、そのお陰というか、俺は吹っ切れた。要するに、手を抜くのをやめた。何事にも全力投球することにした。
そしたら面白いことになった。
俺は剣道部の先輩全員を道場破りよろしく惨敗させ、その噂を耳にした剣道経験者の教頭が俺と対決。俺が教頭を負かしてしまった。結果俺を甚く気に入ったらしく、教頭の計らいで外部から剣道の指南者を呼び寄せてもらい、剣道部で俺は一人冬の1年大会で初出場にして初優勝を飾るという快挙を成し遂げる。2学期、3学期の期末テストでは満点をとり、学年主席の名誉を表彰される。スポーツテストではアスリート並の技量を披露し、クラスメイトの視線を独り占めしたのは言うまでもないし、それを目撃した他のクラスの生徒達が、俺の部に入れと言って引っ張りだこになったというのも、俺からすればありふれた図である。とまぁ、1年のほんの僅かな期間で、自分でも驚きの結果が残されることになった。2年に進級しても俺の全力投球は如何なく発揮され、大会2連覇。首席。そして生徒会会長選挙に推薦、圧勝、任命。終いに学校の先生から、生徒達の風紀を取り締まって欲しいと頼まれ、風紀委員会設立。とまあ、見事なまでの出世コースを歩んできた。
そう。お気づきの方もいるかもしれない。俺は世間一般の人とは違う人生を送っている人間なのである。出生のあたりから回顧するのは面倒だし俺にメリットがないのでここでは割愛するが、とにかく俺は今、人生を「やり直している」のだ。本位ではないものの、優秀な中学生として楽しい学校生活を満喫することに成功し、僅かだが気心の知れた友人もできた。ゆくゆくは高校推薦でもなんでも貰って大学付属の高校に入れば、大学受験もしなくて済み、大手企業に就職できる可能性も高まり、そこで出会う女性と恋に落ち、結婚し、子供を育てあげ、夫婦2人で平凡ながら平和で、穏やかな老後の人生を送れるだろうと策を巡らせていたという訳である。
だというのに、俺が風紀委員会委員長になってから、俺の人生の風向きが変わる。赤司と出会ってしまったのである。この俺の描いていた成功コースの、レールを留めるボルトを見事粉々にぶち壊してくれたのが、ここにいる男だ。
「。今日も素敵だね。いつもと香りが違うようだが、シャンプーを変えたのかい?」
そう。この少年は俺を好きだと言った。それも、友情や尊敬といった綺麗な感情ではなく、男が女に抱くような恋愛対象のような意味合いで好きなんだと、愛しているのだと言っていた。それも、ごく普通に、この学園内の、生徒の往来の最中に。こんな学校で輝かしい人生を送っている俺に発生した初めてのスキャンダル的な事件だ、それはもう話題にもなる。
ここまでの仕打ちを受けて、この男を嫌わないやつがいたとしたら、それは仏か神か、ホモぐらいだろう。ただし、ここで待って欲しい。俺は男である。赤司も男。残念なことに、俺は女の子が好きである。つまり。俺と彼は世間一般から見てどう頑張っても恋人という甘い関係に落ち着くことはないのである。
まあ中二病であるのはお年頃としてカウントし、俺に対する感情を度外視さえすれば、この後輩ができる奴であることは間違いない。細かい事によく気づき、いつも温厚で場をわきまえた態度でいながら、やるべき時は毅然と振舞う。去年こいつが1年だった時は学年首席をとっていたようなので、頭もキレる。今年からはバスケ部主将に任命されたとあって責任感も強いし、バスケの大会では優勝有力候補だと期待を寄せられている。おまけに実家はお金持ちときた。非の言いようがない、絵に描いたようなハイスペックなこの男。モテないはずがない。もし俺が女の子だったら、それはもうめでたくハッピーエンドだろう。
が、何度でも言う。俺は男であり、女の子が好きである。そして俺は、全校生徒、先生から注目を集める男である。将来有望な男なのである。
だからこうやって目の前の後輩が俺の机に、俺の名前と後輩の名前で作られた相合傘がデカデカと呪いの彫刻よろしく彫り込まれていたとしても、その犯人が目の前で俺の髪の毛の匂いを嗅ぐために端正な顔を近づけて来たとしても、俺はブレないのである。
「赤司征十郎君、おはよう。学年が上の生徒には先輩という敬称をつけて呼びなさいと言っているじゃないか。これで38回目になるのに、まったく。君はいつになったら僕を先輩として覚えてくれるんだい?それに机もこんなになるまで削ってしまって。机が可哀想だろう。後で元通りにしておくんだよ。ああ、でも君は本当によく気がつくね。そうなんだ、つい昨日シャンプーを変えたんだ。なんでも祖母が僕に合うようにって、ヨーロッパのお土産で買ってきてくださった。世界に1つのオーダーメイド品のようでね、僕用に調合してくださったそうだ。良い香りだろう」
そう。俺はできた男であり、変な所で天然でなければならない。腹に黒い逸物を抱えていることがバレてはいけないし、些細なことで慌てふためいたり、キレることでイメージをぶちこわしたりしてはならないし、なにより、ブレてはいけないのである。
たとえクラスメイト全員が各々の感情を持った目で、俺と赤司のやり取りを注視していたとしても。この一連のやり取りが最近エスカレートしている所為で、俺がホモ呼ばわりされようとも。鈍チンと呼ばれようとも。天然生物と呼ばれようとも。
俺はこの大嫌いな野郎の前で、ブレる訳にはいかないのである。
- continue -
2013-06-12
(おまえなんて大嫌い)
(でもホモだけは勘弁してくれ)