今度も夢を見た。俺はアカデミアに居た。
何時もなら無い真っ暗のカーテンで締め切られている、アカデミアの廊下だった。
少し離れた場所に、少年が1人いる。…そう、忘れもしない。彼は「高寺」だ。
オカルト研究部の1人で、俺がサイコショッカーのカードをプレゼントした男子生徒だ。
でも"あの"事件以降、彼は入院しているはずで―――。はたと気が付いた時、高寺は目前に移動していた。
そして俺の手前で、高寺はおぞましい表情を浮かべ、まるで俺を呪うように、ある言葉を延々と繰り返すのだ。
賽は投げられた
「…っ!」
ぞっとするような戦慄の一瞬から逃れた俺は、息を詰まらせた。
息を整える間もなく、見開いた瞳に飛び込んできたのは夢か現かもわからぬ暗闇だった。
目が覚める前、じくじくと痛んでいた背中の痛みは消えている。
その代わりだとでもいうように、俺の体は腕を両脇に閉じた状態そのまま、縄できつく結ばれていた。
加えて背中に重みを感じる。踏ん張っていないと後ろにひっくり返ってしまいそうだ。
喉は既にカラカラで、声を出すのもままならないほどだった。
ややあって、といっても闇の中で正確な時間は分からないが、突如闇に光が射した。
光に慣れない目が、急激な変化に耐えきれず、軽い痛みを伴った。目を瞑っても瞼越しに突き刺さってくる。
「…来い」
低い声の何者か、おそらく男が、紐を掴み引っ張り上げ、俺を立たせようとしたのを、感覚で感じた。
両手も使えなく不自由なまま、紐に誘導されるように部屋から足を出さなければならなかった。
何度か転びそうになりながら進むと、目が段々光に慣れていく。
ずうっと閉じたままだった目をギリギリ薄く開ければ、槍を持った古代の兵士らしき者の背が見えた。
しばらくあって、その槍兵に止まっているように指示された。また、別の声が耳に飛び込んでくる。
「――罪人のお目覚めだ」
ここまで俺を連れてきた槍兵は俺の横、その後ろに下がった。
視界が開けて、徐々にではあるが光に慣れた目は完全に開けることができた。
目の先に1人の男が立つ背中を見つけ、そしてその奥に、大層見慣れたモンスターがいることに気が付く。
十代のフェイバリットカード。ヒーロー達のソリッドビジョンだった。
「…罪人?一体何のことだよ」
声を聞いたのが酷く懐かしく聞こえた。俺は何か、安心とも取れない感情の膨張を感じた。
目頭が熱くなるが、両腕ごと縛られていて、それをせき止める術がなく、ただ溢れさせるしかなかった。
「この闇の墓に侵入してきた、悪の光だ。…見ろ!」
男が少し横にそれると、自分の視界に十代の姿が映った。
変わらない、普段と同じ、十代がそこに居た。
俺の顔を見て酷く狼狽する表情は見たことのないもので、この状況にも関わらず酷く滑稽に思えた。
「!?」
「…じゅ、う…だい」
カラカラになった喉では音も出ず、ただ息だけを前に押し出すくらいしかできなかった。
俺の登場に驚きを隠せない十代の声、それに反応するようにどこからか声が上がった。
「兄さん!」
「!」
「さん!」
「先生!」
翔、明日香、隼人君、大徳寺先生に良く似た声が、俺の名前を叫ぶ。
足下から聞こえた気がして視線を下げれば、蓋の閉まりかけている棺桶が闇の中に4つ並んでいた。
「兄さん、兄さん!そこにいるんすか!?」
「しょ、う…翔っ!」
掠れた声で叫ぶと、背中の筋肉がぐっと張るのを感じて、次の瞬間俺の体は宙に浮いていた。
十代も、十代と対峙する男も、目下に見えるほどになる。
「――縄を引け!」
男が叫ぶ。
ぐんぐん上昇する体を繋ぎとめたのは、体に巻かれていた拘束の縄。
それを引っ張ったのは、先程俺を連行していた屈強な体格の槍兵。
がくんと落下し、そのまま勢いよく鈍い黄金色の石畳に、尻もちをつく様な形で体を打ちつけた。
「あっ…ぐ…!」
両手が縛られていた所為で、受け身も取れず、無様な体勢で崩れ落ちる。
ばたばたと俺の周囲に兵士が集まりだし、俺をうつ伏せにし、両手足を押さえて自由を奪った。
十代が何か叫んでいるが、心臓の鼓動が周囲の音を拾うのを妨害してくるように激しくて聞こえない。
何が起きたのか、思考できるほど俺の精神は落ち着いていなかった。
自分が何か得体のしれない強大な何かに操られているようで、震撼した。
「に何をしたんだ!」
「…さあ、お前の番だ遊城十代。早く手札を引け」
「――、俺のターン!」
ずぐ、ずぐ、ずぐ。背中のほうが痛い。背中が熱に浮かされたように熱い。
此処までに幾度と感じた、闇の中へ引きずり込まれる奇妙な感触。俺は抗うことなく目を閉じた。
視界の隅に映った白が、網膜の裏に焼き付いている。
(俺を殺したのは誰だ、俺を殺したのは、何処のどいつだ)
(彼の表情は憎悪と嫉妬に塗りたくられていて、頬を伝う涙は血のそれのように見えた)