トメさんに関する多くの衝撃な事実が発覚した。彼女はパンに入れるべきではないような食材を利用している。
俺は彼女に対する見解を改めようと決意した翌日、本土から帰ってきた生徒の中に十代達がいた。
卵パン目当てだった十代が当てられなかったことでトメさんがドローパン盗難のことをポロリと零してしまう。
あれよこれよという内に、正義感の強い十代達は夜中、購買の見張りをすることを決めてしまった。
複雑な心境
生徒とトメさんだけでは危ないだろうと思って、俺もこの犯人探しに参加することにした。
今となっては正解だった。それは十代が数分前にした発言に理由がある。
彼はあろうことか、お腹が減ったと言ってしまった。そこまでは良かったのだが、その先が最悪だった。
トメさんがそれを耳にして、張り切って購買の奥の、台所へと入っていったのである。
「トメさんが作ったおにぎりだ」
トレイに綺麗に並べられたいびつな形の海苔巻きおにぎりと俺の言葉に対し、十代達は感想を一言ずつ述べた。
「おっ、うまそうじゃん」
「…ホントにトメさんが作ったの、兄さん」
「なんか形が変なんだな…」
「そうね…海苔もちょっとズレてる感じだし」
最初の十代の台詞は別として、翔と隼人君と、明日香の受け応えは至極当たり前の反応だった。
数十分前。十代の発言のお陰で、トメさんは台所へ向かった。
夜遅くまで見張りに付き合ってくれるという十代達に夜食を作るためということは、想像に容易いものだった。
昨日の今日で彼女の癖を目の当たりにしている俺は、変な使命感に追われてトメさんを追いかけた。
まあ普通に考える人なら、女性であるトメさんの上手な、形の良い三角型のおにぎりが運ばれてくるのが一般だ。
「…まあ、どうぞ」
それにもかかわらず、お世辞にも料理が上手くない俺がこのおにぎりを握ったのには訳があるのだが、言えるわけがない。
トメさんが具を入れたおにぎりには、ピザだとかチョコだとかトンデモなものが入っているからだなんて。
今彼女には、お米を炊いた釜や具を置いていたお皿などを片してもらっているというわけである。
その隙をついて、お皿に乗っていたおにぎりを俺の物と交換し、こうして振舞っている。
俺がトレイごとお皿を差し出せば、4者それぞれ反応が違うものの、それぞれ一つとって口に運んでくれた。
「!こ、これは…!」
感想を期待していなかった俺の耳に飛び込んできた声は十代のものだった。
ドキリとする、まさかとは思うが、トメさんのおにぎりが紛れ込んでいたのだろうか。
一体何が入っていたのかと想像するだけでキリキリ胃のあたりが痛む。
「…不味いんだったら、無理して食べなくて…」
しかし俺の心配を余所に、彼らは目の色を変えてこう言った。
「その逆よ、…!」
「なんだこれ、超うまいじゃねーか!」
「ご飯が固まってなくて、具と程良く絡まるというか…」
「握り加減が絶妙なんだな」
捲し立てられるように褒められてしまっては、あの真実を発言することもできない。
渇いた笑いを浮かべながら、そうか、と呟いた。本当は嬉しくなるはずの発言の数々は違う方向に向けられているからだ。
「さすがトメさんだな!」
十代がそう言いながら、シャケの入ったおにぎりだけを選んで食べているのを、翔が咎めている。
トメさんが喜ぶ顔が浮かんで、俺は嫌な汗が背中を伝うのを感じずには居られなかった。
トレーいっぱいにあったはずのおにぎりは、あっという間になくなった。
(その後シャッターを押しあけて侵入してきた不審者を十代達とトメさんが追いかけていった)
(俺は完全に出遅れて、1人誰もいない購買で見張りをするしかなかった)