冬の足音の接近を予感させるものは、2週間ほど前から増えだしていた落ち葉が始まりだった。
木枯らしが肌寒く感じるようになって、半袖の下着と長袖1枚では寒くなってきて。環境の変化は急速だった。
そろそろ首にマフラーでも巻こうと思い、冬ものを仕舞っていたトランクのケースを開けたのは、つい一昨日の事。

雪のち晴れのち曇り


サンタクロースが小さく書かれた壁掛けのカレンダーは、すでに12月のものに捲られている。
10月に支給された厚手のコートの出番が思ったより早くなりそうなのには、窓の外の景色が大きく関係していた。

「…雪だ」

一面に積もった白銀の絨毯。起きぬけに肌を掠めた冷たい空気は昨日より一段と凄みを増している。
ベッド脇に置いてあったスリッパは冷たいが、そもそも足が冷たいのであまり関係無いようだった。
暖房をつけるために窓際の壁に掛けられたエアコンのリモコンを押すために、俺は体重をかけて立ちあがった。

それが、今朝のこと。
アカデミアは本土よりも南に位置しているので、比較的暖かい場所である。
秋になっても温かい陽気に冬物と夏物の交換を渋った結果、急速な気候の変化に驚いている。
ニュースでは曇りのち雨で終わっていたはずなのに、夜中から朝にかけてしんしんと雪が降り積もったのだ。

最近では温暖化とかなんとか、専門家達が騒いでいるので、雪も珍しいご時世になった。
そんな中、今年は異例の速さで雪が降り出した。まだ12月も中頃だというのに、雪は3センチほどある。
子供の頃は嬉々として走り回った事は懐かしい記憶の一部だ。今は疎ましいとしか思えない。
なぜなら雪かきと言う作業が追加されるはめになったからである。

俺は今、アカデミア本校前に続くアスファルトの上の雪かきをしている。
手袋越しに朝の冷えた空気が伝わってきていて、指先の感覚はだんだん無くなってきていた。
ホッカイロでも持ってくればよかったかと思いながら、握りしめた除雪用スコップを黙々と動かす。
天気予報では曇りと言っていたが実際は太陽が顔を覗かせている。
お昼まで放置せずとも気温の上昇で雪の表面だけ解け、生徒達が転んでしまっては危ないとの配慮により雪かきは行われる。



眠気と雪の反射でしょぼしょぼする目を瞬かせ、土の見える地面から校舎までの、人ふたり分ほどの通路を確保した頃。
出来たばかりのそこを通ってやってくる人影の声が俺を呼ぶので、おもむろに顔をあげた。
何時も通り早起きな亮がいて、彼も俺と同じようにマフラーを巻いていた。

「おはよう」
「おはよう、」
「今日の明け方は、雪が降っていたんだな」
「ああ。お陰で雪かきをするハメになったよ」
「そうか。…仕事、頑張れよ」

朝の挨拶の後に他愛もない会話をする。亮と俺がこうして朝話すようになったのは、つい数週間前のことだ。
いつもならあと10分ほどこんなノリで語らうのだが、どうも彼の方の都合が今日は良くないようだ。
亮は短く別れを告げる言葉を言うと、早足で校舎に入っていく。俺はその後ろ姿を見送りつつ、また腕を動かし始める。
4分の1ほどの雪が道の両脇に積もってきて少し山になったあたりで、朝食を終えた生徒達が本校に集結してきた。

「おはようございまーす」

ブルー寮の女の子達や、イエロー寮の子達の一部に挨拶の声をかけられる。
その中には翔や隼人や明日香、なんかもいて、彼らにはちょっとだけ手を振っておいた。
手を休めがてら雪かきを進めているうちにホームルーム開始のチャイムが鳴りだす。
生徒は全員アカデミアに行ってしまったことだし、辺りの雪も大方片付いた。
気が付くと俺の足下の影は無くて、顔を上げると先程まで出ていた太陽を薄暗い雲が覆い隠しているのに気が付いた。
白い息を吐き出しながら、僅かながら残った白を除去するために、視線を落としてスコップを動かしだした。

ーっ!」

酷くデジャブを感じて、その声を出した人物を確認するために顔をあげる。
走り寄ってくる人影と同時に顔面に襲いかかってくる白い雪玉を、俺は避けることができなかった。

「へへっ、命中だ!」

べしゃりと嫌な音を立てて、俺が綺麗にしたアカデミアまでの道に雪の塊が落ちる。
同時に俺の温厚な性格の中に眠っていた怒れる鬼がその頭角を現す切欠になろうとは、十代に知る術もない。

(あまりに唐突で当たったものが雪玉と分からないまま)
(そう言ってはしゃぐ十代の頭を殴りつけると、かじかんだ掌がじんわりと熱を持つのを感じた)