05 - How can I know?

「俺の名前は―――」

グワンと意識が回転する感覚の後、気が付くとまた俺は夢から覚めていた。電気のついてなくて暗い部屋の、見慣れた天井が目の先にある。それから、ベッドの上に横たわる自分を確認。これで3回目となって、ようやく俺は結論に至った。


 * * *

「名前を言うと目が覚める」
「…そうみたいだな」

不動も納得したように頷いた。実験じみたこの行動をしたのには、俺の、今日の最初の台詞に原因がある。昨日の不動の質問から始まったといえばそうなるが。

俺は今回もまた同じように、満月の光が差し込む、瓦礫だらけのトンネルで目を開けた。それからまた作業場でバイクを弄る不動と会う。そこまでは何時も通り。俺はなぜだか、不動に一度も名前を告げていない事を思い出して、ちょっとした思いつきで名前を教えようとした。しかし不動には届かなかった上に、俺は今までにないほどの強烈な速度で目を覚ました。

「もうやるのは勘弁してくれな…1回目覚ました後に寝るのも楽じゃないんだ、これが…」

だから俺は、冒頭のセリフを3回繰り返したというわけだ。実験の結果、どうやらこの夢の世界だと、俺の名前はタブーらしかった。言うと強制的に目が覚める。しかもその目覚めが、なんだか妙なぐらい気持ちが悪い。まるで熟睡しているときに無理矢理叩き起こされたような倦怠感に見舞われるのだ。

そもそも、なぜ俺が名前を言わなければならなくなったかといえば、不動が俺の名前を知りたがるのがそもそもの発端だ。別に不自由してるわけであるまいし、俺はどっちでも良かったのだが、不動は至って真面目な表情でこう弁を論じるのだ。

『呼ぶ名が無いと不便じゃないか』

俺の知ったことじゃない。"お前"とか"貴様"とか、嬉しい事に日本語には代名詞が沢山ある。何とでも呼んでくれて結構だ。それにも関わらずこの男は、不服なオーラを放っていて、無表情のなか俺に言葉少なに(いっそ言葉もなしに)俺に視線を送ってくるという高等技術を披露している。それに耐えきれなくなって思わず叫んだ。

「あーもう!不動!適当に決めろ!」
「…名前をか?」

きょとん、彼は言葉の真意を測りかねたのか、突如大声を出した俺に全く構うことなく、確認を取るように俺に聞いてきた。それ以外に何があるんだ。俺は言いかけて、言葉を飲み込んだ。細く息を吐いて、心理的な何かを落ち着かせることにした。

「…何でもいい、お前が不便じゃない程度に付けてくれ」

そう俺が告げると、会話の冒頭から持っていた工具を握りしめたまま、不動は硬直した。じっ、と俺の顔を見つめていると分かった時から、彼が名前を考えているのだと理解するまで、しばらくかかった。終始無言だった。

「…」
「…」
「………」
「(…そんなに悩まなくても…)」

俺が名前を言う手段を探すより、その方が手っ取り早く、かつ無難なものが決まるだろうと思っていたので、俺は弱った。こんなに直視されるのは初めてだ。俺は視線をどう流したらいいか分からなかったので、逆に見つめ返すことにした。

青い、眼だ。日本人じゃないのは、誰にだってわかる。透き通っていて曇りが無い。不動は外国人なんだろうかと思うが、でも日本語で意思疎通をしている説明がつかなくなりそうだったので考えるのを止めた。というか良く見るとコイツイケメンだ。むかつくほどに整っている。まあ髪型はちょっとアレだが、顔はどこぞの事務所に声をかけられても不思議ではないレベルだ。

「…

そんな関係のない事を考えていたから、俺は最初に不動がぽつりと呟いたのを一瞬聞き逃しそうになった。

、はどうだろう」

不動の口から告げられる言葉は、酷く滑らかで、耳触りのよい名前だった。そしてあの感触が襲いかかる。目の前の青が、ぼやけて黒に飲み込まれていったのに気が付いた時、俺の意識は既にそこにはなかった。


 * * *

「…悪くないんじゃねーの」

そう口を開いたのに、虚しい事に、俺の視線の先には天井しかなかった。夢から覚めるタイミングが、まったくわからない。俺の名前を言ったわけでもないのに、どうして眼が覚めるんだ。お陰で同意どころか、感想さえも告げる事が出来なかった。

俺は少し、そのままベッドに横たわった状態で宙を眺めていたが、何が起きるでもなかった。



「どうやったら分かるのか」
LAST UP DATE>>10/08/21